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第7話 点火時期のお話し

エンジンの点火時期ですが個人的には結構気にしています。
現在の車でしたらコンピュータ任せでいつでも最適値になっていますが旧車の場合はそうもいきません。
以前のトレノ君の時にも変更に伴い大幅な燃費アップも経験しており、パワー/燃費に非常に影響するのではと個人的には思っています。
ハコスカ君の点火時期について最適化を検討します。

○最適な爆発のタイミングは?

理論的には最も混合気が圧縮されるピストン上死点で爆発するのが最適ですが、そのタイミングで爆発してしまうとピストンを押し下げる力がクランク回転に対し反対側に働いてしまう可能性があります。
そうなると回転しているクランクを逆に回そうとしてしまう事になります。
俗に言う「ノッキング」と言う症状です。
「チリチリ」結構おとなしい音ですが、実は過大な負荷を与えておりエンジン破壊に至る非常に怖い症状です。
そこで実際の爆発はピストンが上死点を通過した直後が理想的になります。
また爆発の終了タイミングは下死点です。
これより前に爆発が終わってしまうとパワーが落ちますし、遅すぎると今度は上昇を開始したピストンを押下げてしまいます。
この爆発(燃焼)時間についてはエンジンの基本設計時点で色々な要因(排気量/圧縮比/使用燃料/燃焼室形状)を元に十分考えられているのでしょう。
後はエンジンを常にこの最適の状態で爆発をさせるのが点火装置の働きです。

最適タイミング
上死点以降で爆発開始
下死点時点で爆発完了
早すぎ
上死点以前で爆発開始
ノッキング発生!!
遅すぎ
下死点経過後に爆発

○最適な点火時期は?

ガソリンエンジンの場合圧縮した混合気を爆発させる為には点火プラグに通電させます。
そのタイミングの事点火時期と言います。
先ほどの爆発開始のタイミングは上死点直後と言いましたが実際の点火についてはもう少し早くなります。
実は点火⇒爆発⇒燃焼完了までには時間が必要になります。
点火プラグ周辺で発生した爆発が圧縮した燃焼室内全体に広がるには僅かな時間ですが、エンジンの爆発間隔も非常に狭いのでその影響を無視できないんです。
例えばエンジンが6000rpmで回転していると1秒間に100回転つまり1回転辺り0.01秒となります。
実際の点火タイミングがクランク回転角度20°程度なのでその時間は0.001秒(1mSec)となり、先ほどの燃焼時間が無視できない状態になります。
したがって点火時期を進める必要があります。
これが俗言う”進角”と言う事です。
しかし厄介な問題があります。
その最適な点火時期ですがエンジンの回転数によって変化してしまいます。
1000rpmの状態と6000rpmの状態では当然1回転辺りの時間は違いますが、混合気の燃焼時間は同じですからタイミングがずれてしまいます。
つまり回転が上昇するほど、より速いタイミングで点火させる必要が出てきてしまうのでです。
当然この対策も講じられ”進角装置”搭載されています。
ハコスカ君の場合回転数アクセル開度検出して制御しています。
デスビの中に組み込まれており回転数に比例しておもりの部分が広げられたり、インテークマニホールドからホースがつながっておりエンジンの負荷状態に伴う負圧変化を検出して点火時期を制御しています。
原始的ですが”おもり””風船”を使って常に最適な点火時期に合わせている訳です。

因みに最近の車の点火時期制御は勿論もっと進化しています。
80年代に登場した国産ターボーカー辺りから採用されたノッキングその物を検出するノックセンサークランク回転角センサー/吸気センサー等の電子機器を使いエンジンの状態を検出
その情報を元にCPU(コンピュータ)にて最適点火時期を導き出して制御しております。
ん〜 当時の科学力では想像もできない事です

<雑談1>
当時の科学力と言えば私がコンピュータに始めて触れたのは高校時代('77年ぐらいかな…)でした
工業高校の実習で使ったんですがなんとコンピュータ本体は丸々1部屋を占領していました。
マシン語で作成したプログラムをテープに打ち込み、それをテープリーダーから読み込ませて走らせたました。
その後しばらくして驚異的な商品が発売されました。
1ボードコンピュータキット”TK-80”の発売です。
なんと8bitCPUを搭載したパソコンが基板1枚の上に乗っていたんです
またこれは完成品ではなく自分で組立てるキットで、当時真面目だった(今でもか…)私に学校から製作を依頼されました。
1週間ほど掛けて作成したパソコンで自作のプログラムを走らせた時の感動は今でも覚えています。
入力はキーボード(テンキー)のみで演算結果も今のようにディスプレーではなく本体付属の8桁の7セグメントLEDのみです。
当然ハードディスクなんて品物はなく本体にラジカセを接続してカセットテープにプログラムを保存しました。
多分これがパーソナルコンピュータの起源ではと思います。
しかもハコスカ君はこれより古い時代ですから今のように車がコンピュータで制御できるなんて思いもよらなかたんじゃないかと思います。
だけど僅か30年ぐらい前の話なんですが…

○点火時期の測定方法は?

最新の車の場合は専用のエンジンチェッカーがありそれに接続すればすぐに判るそうです。
しかしハコスカ君の時代では勿論CPUなど付いておらず、点火時期を測定するのは”タイミングライト”を使用します。
一般的にはエンジンのクランクシャフト前部プーリー等が付いているんですがこれの外周部分に切れ込み等のマーキングがあります。
実はこのマーキング位置1番シリンダーの上死点に付いています。
タイミングライト入力端子1番のプラグコードに接続しエンジンを回します。
すると1番シリンダーの点火信号を検出してそれと同時にフラッシュを点灯させます。
その光をプーリー部分に当てる光った瞬間の映像だけが目に入りマーキングが止まって見えます
つまり残像です。
このマーキングの位置が目盛りに対してどの位ずれているか点火時期になる訳です。
原理は簡単です

○ハコスカ君の標準値は?

当然ハコスカ君S20にも点火時期の標準値があります。
基本はこれに合せればOKです。

<標準値>
上死点 -15deg (1000rpm)


つまり回転数1000rpmの状態上死点に対して−15degが標準のようです。
取りあえずタケウチさんにお願いしてタイミングライトをお借りして現状の点火時期を確認します。
ハコスカ君の場合はエンジンブロック本体に針がありクランクシャフト側のプーリーに標準位置の部分のケガキ線合致していれば良いみたいです。
1番のプラグコードに接続してライトを当ててみます。
???どうもノーマルとは違うようです…
ノーマルの場合は上死点の白線15degの赤線2本のケガキ線のはずですがもっとあります。
ん〜 どうやらケガキ線が追加されているようです。
やはり以前エンジンに手が入っているようで、その時にでも追加されたんではと思います。。
しかしこれでは良く判りません…
それぞれのケガキ線が何度なのかを調べなくてはいけません。
まずはクランクプーリーの外周を測って、それから外周部のケガキ線の長さより回転角を算出してみます。
上からはクランクプーリー手が届かず仕方なく下側のエンジンカバーを外します。
お〜 これで手が届きます。
100円ショップ巻尺を買ってきたのでプーリーに巻き付けて外周を測定してみます。
大体473mmです。
直径を算出するには円周率(π)で割ればOKです。
直径=473÷3.14150.6369426751592356687898089172…
ん〜割り切れません実際に製作するのに小数点以下を端数で作る訳はないので150mmでしょう。
続いて円周上の長さから回転角度を算出する為単位角度の長さを算出します。
150mm×π÷360deg1.3mm/degとなります。
つまりプーリー外周上の長さが1.3mmだったら1degとなります。
続いてプーリー上の各ケガキ線間の長さノギスで実測し、そこから角度を算出してみます。


円周上のピッチノギスで測ったので誤差もあるかと思い切りの良い整数にしてみました。
これで点火時期の値の調整ができますが、なぜケガキ線が追加されているのでしょうか?

○S20の最適点火時期は?

最適な点火時期としてはノッキングが起こる直前が最もパワーが出るはずです。
しかし実走行で合せるにしても目安があると判り易くなります。
以前入手したハコスカ君レースマニュアル点火系の設定方法がありますのでそれを参考にセットアップしてみます。
<レースマニュアル設定値>
・ディストリビュータのバキュームホースは取外す。
・点火時期調整
__1000rpm:17deg
__6000rpm:37deg を重視する事
__*クランクプーリーには35/45degの位置にマーキングを付ける事


かなりレースを意識した設定のようです。
ディストリビュータのバキューム装置の働きインテークマニホールドの負圧によるアクセル開度を検出して点火時期を調整する目的です。
このホースを取外すと言う事は常にアクセルを開けている状態を想定しているんじゃないかと思います。
1000rpmの点火時期もノーマルの15degに対してより若干進角させ17degに設定するようです。
またノーマルでは無かった6000rpmの進角確認も実施し、それを優先させると言う事は常にこの領域を使用する前提と言う事でしょう。
最後のクランクプーリーのマーキング値の違いはありますがマニュアル通りに追加されていた訳です。
多分以前エンジンをいじった人これを参考に設定したんでしょうね。
取りあえずこれを参考にタイミングライトで確認〜調整を実施してみます。

設定を完了して試運転です。
ん〜 今までの設定も問題が無かったので大きくフィーリングの違いは体験できませんでした…
パワーチェック/サーキット走行等極限状態では効果があるのではと期待しちゃいます(^_^)/~

○更なる設定

取りあえずノーマル/レースマニュアルに基づいた点火時期の調整ができました。
しかしこれが最適とも思えない所もあります。
実はガソリンについても当時と比べるとかなり進歩しているんです。
ハコスカ君の時代ガソリン今では含まれていない(テトラエチル鉛)が含有されていました。
この分質はガソリンに含有させる事によりオクタン価(燃焼時間の早遅値 オクタン価が高い程遅い)をUPさせノッキングを防止する特性を持っていました。
つまりノッキングしにくいのでより点火時期を早める事ができる訳です。
当時はレギュラー/ハイオクと有りましたが鉛の量が違うだけでどちらにも含有されていました。
しかし実はこの鉛は猛毒呼吸や皮膚接触により簡単に人体に吸収され、中枢神経性の麻痺を与えてしまう分質でした。
当時東京新宿区の交差点周辺住民が鉛中毒に犯されていると言う調査結果を元にマスコミで騒ぎとなり一気にガソリンの無鉛化が進みました。
当然無鉛化に伴いガソリンのオクタン価が下がってしまい、点火時期の遅れ⇒パワーダウンとなってしまいました。
S20エンジンについても終盤にはレギュラー仕様があり最高出力も5馬力ダウンの155馬力だったそうです。
しかしその後ガソリンも進化しました。
鉛の代わりに含酸素化合物を添加する事によりオクタン価を上げる事ができるようになりました。
そうです今の無鉛ハイオクガソリンです。
またそのオクタン価は当時の98オクタン価を凌ぐ100オクタン価となりました
従って従来よりもノッキングしにくくより点火時期を早める事ができるはずです。
この辺は後々挑戦してみたいとは思います。

<雑談2>
ガソリンについては各人の好み(有るのかな…?)が有るかと思います。
私の場合はほぼ100%シェルのハイオクを使用しています。
以前初代ミラターボに乗っていた時があり、初めてのターボカーと言う事で案の定色々いじり始めました。
会社のゴミ箱に捨てられていたエアレギュレータ(バルブ)を持ち帰り、ターボ本体からリリーフバルブへのホースの間に割り込ませます。
勿論ブースト計も取付けます。
ーボチャージャーにて加給された空気ある一定以上の圧力(確か0.7気圧ぐらいかな…)になるとその圧力を検出するとリリーフバルブを開いて加給気を逃がしてしまいます。
必要以上の加給が掛からないようにしている訳です。
しかしそのホースにレギュレータを割り込ませ絞る事により実際は1.2気圧ぐらいまで上昇しているんですがリリーフバルブにはその半分ぐらいしか掛かっていないように見せる事ができます。
当然加給圧上昇に伴い飛躍的にパワーは増大しますが、レギュラーガソリンではノッキングの雨あられです。
普通車のターボカーには入っていたノックセンサーが付いていなかったのでしょう。
(ちなみにこの時に本格的にノッキングを経験しました。)
そこでオクタン価の高い無鉛ハイオクを入れてノッキングをしない限界まで加給圧を調整する訳です。
その際に各社から出ているハイオクガソリンを試してみたんですが結局シェルのハイオクが最も加給圧が上げられました。
表示上は同じ100オクタン価ですが何かが違うようです。
加給圧UP/リミッタカット(当時は単純にメーター裏の配線をカットしただけです)したミラターボ東名高速を160km/h辺りまで加速してしまいました。(もう時効です・・・)
そんな理由でその後もシェルのハイオクを愛用しています。
またシェルのハイオクもモデルチェンジされました。
気化器/燃焼室等のクリーニング機能を追加された現状品です。
FIAT500に乗っている時に何時もの様にガソリンスタンドに行くと新型ハイオクに切り替わったとの事です。
早速入れて走り始めた所、いきなりフィーリングが違います。
吸気系の汚れが落ちたのか、明らかに軽やかに吹き上がります。
おお〜 謳い文句の効果があるようです。
その後トレノ君にもシェルのハイオクを入れた所同じ様なフィーリングを感じたので、それなりの効果があるのではと信じています。
特に旧車系の場合は今のようなハイテク装備(ノックセンサー/CPU etc…)なども無く、より効果が体感できるのかも知れませんね。
またご存知かも知れませんがガソリンに含有していた鉛にはもう一つ機能がありました。
それはバルブヘッド密着性を保つ為のバルブシート磨耗対策としての機能です。
バルブとシートの間で鉛がクッションのような働きをしていたようです。
しかし鉛を入れる事ができなくなりその後バルブシートの材質を変更しなければいけなくなったようです。
当然それ以前の車についても無鉛ガソリンを入れるんでしたらバルブシートを対策品に打ち替える必要があります。
ん〜 ハコスカ君のも一回エンジンをいじってあるようなので打ち替えてあるんじゃないかとは思いますが、実際にはヘッドを開けて見ないと判りません…
調べてみると対策前のエンジンに無鉛ガソリンを入れた場合1500km程の走行距離で磨耗が進むようなのです。
しばらく走ったらバルブクリアランスの確認をしてみようとは思います。

またもう一つ対策は点火系の電子化です。
回転数/負圧等による点火時期の制御も当時はメカニカルな内容となっています。
振り子や風船の原理です。
当然外的や劣化要因による影響を受けてしまいます。
それに対して最新版の電子制御の場合はその要因による影響を極力減らす事ができます。
またその設定もマップ化し各条件にて最適化を図る事ができます。
クランク各センサー/負圧センサー組込みとCPUユニットの搭載により決して旧車だからできないと言う訳では無さそうです。
しかしそのメリットはいきなり10馬力も上がるわけではないのでコストパフォーマンス的には残念ながら疑問は残ります。
とは言ってもデスビ内部の進角装置が壊れたりしたら交換部品が無ければ何とかしなければいけないかも知れませんね。






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